インボイスと免税事業者からの仕入れ|整備工場・車販店の取引と控除割合

インボイス制度のもとで免税事業者からの仕入れは、原則の仕入税額控除が受けられません。そのかわり経過措置があり、令和8年(2026年)10月1日から令和10年(2028年)9月30日までの課税仕入れは、仕入税額相当額の70%を控除できます。整備工場や中古車販売店は、個人で営む板金・塗装の外注先や陸送業者など、免税事業者と取引する場面が少なくありません。この記事では、取引の種類ごとの扱い、控除割合と上限額、古物商等特例・少額特例との関係、取引を見直すときと相手が登録するときの手順を、国税庁インボイスQ&A(令和8年5月改訂版)と令和8年度税制改正の国税庁資料に沿って整理します。

インボイスで免税事業者からの仕入れが問題になる理由

仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書発行事業者(登録事業者)から受け取った適格請求書の保存が要ります。免税事業者は登録を受けられないため(登録を受けられるのは課税事業者に限られます。Q&A 問2)、免税事業者から受け取る請求書は適格請求書になりません。

その結果、免税事業者に払った代金に含まれる消費税相当額は、そのままでは控除できず、買う側の納税額が増えます。たとえば税込11万円の外注費なら、本来控除できたはずの1万円が控除の対象から外れる計算です。これを段階的に緩和するのが「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」で、控除できなかった部分のうち一定割合を控除できるようにしています。

取引先が免税事業者かどうかは、請求書の登録番号を国税庁の公表サイトで照合すれば分かります。手順はインボイスの登録番号を確認する方法で解説しています。

免税事業者からの仕入れで控除できる割合と期間

経過措置の割合は、令和8年度税制改正で見直されました。国税庁インボイスQ&A 問113(令和8年5月改訂版)が示す期間と割合は次のとおりです。

課税仕入れを行った期間控除できる割合
令和5年(2023年)10月1日〜令和8年(2026年)9月30日仕入税額相当額の80%
令和8年(2026年)10月1日〜令和10年(2028年)9月30日仕入税額相当額の70%
令和10年(2028年)10月1日〜令和12年(2030年)9月30日仕入税額相当額の50%
令和12年(2030年)10月1日〜令和13年(2031年)9月30日仕入税額相当額の30%

改正前は令和11年9月30日までの「50%(3年)」で終わる予定でしたが、適用期限を2年延ばしたうえで、70%、50%、30%の段階を踏む形に変わりました。ネット上には「80%の次は50%」と書いた古い解説が残っているので、社内の資料を作り直すときは注意してください。

どの割合を使うかは、課税仕入れの時期で決まります(Q&A 問113-3)。役務の提供を受けた場合は、原則として約した役務の全部が完了した日です。商品の仕入れは、原則として引渡しのあった日です。9月に預けた板金の外注作業が10月に仕上がれば、その外注費は70%の側に入ります。

一の免税事業者あたりの上限額(税込1億円)

経過措置には、取引先1者あたりの上限があります。Q&A 問113の注書きによると、一の免税事業者等から行う経過措置の対象となる課税仕入れの合計額が、その年またはその事業年度で一定額を超えると、超えた部分には経過措置を使えません。

課税期間の開始日一の者あたりの上限(税込)
令和6年(2024年)10月1日〜令和8年(2026年)9月30日に開始する課税期間10億円
令和8年(2026年)10月1日以後に開始する課税期間1億円

判定は「開始する課税期間」で行います。暦年で申告する個人事業者や12月決算の法人なら、令和9年(2027年)1月1日に始まる課税期間から1億円の上限が当てはまる読み方になります。整備工場で1者に年1億円を超える外注を出す例は多くありませんが、車両の仕入れや陸送をまとめて特定の個人に任せている販売店は、年間の支払額を一度集計しておくと安心です。

経過措置を受けるための帳簿と請求書

経過措置は自動では適用されません。Q&A 問113は、次の二つの保存を要件にしています。

  • 帳簿:通常の記載事項に加えて、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を書く。国税庁の例示は「80%控除対象」「免」など
  • 請求書等:区分記載請求書等と同様の記載事項(作成者の氏名または名称、年月日、内容、税率ごとの税込合計額、受け取る側の名称)を満たしたもの

70%の期間に入ってからの帳簿の書き方について、国税庁の資料は「『80%控除』・『7・5・3割控除』を受ける課税仕入れである旨」を記載すると説明しています。「70%控除対象」という書き方そのものは、Q&Aの例示には載っていません。記号を付けて凡例で示す方法も認められているので、詳しくは経過措置を受けるときの帳簿の書き方を確認してください。

整備工場・車販店で免税事業者と取引しやすい場面

自動車業で相手が免税事業者になりやすいのは、個人や小規模の事業者に仕事を頼む場面です。取引の種類ごとに、使える仕組みを整理すると次のようになります。表の「当てはめ」は、国税庁の一般的な取扱いを自動車業の取引に当てはめたもので、国税庁が業種を名指しして示したものではありません。

取引の例相手が免税事業者のときの扱い確認したいこと
個人の板金・塗装職人への外注経過措置(令和8年10月から70%)作業完了日で割合が決まる。年間の支払額
個人の陸送業者・回送ドライバー経過措置。1回税込1万円未満なら少額特例も検討1回ごとの金額か月まとめか
消費者や免税事業者からの中古車の買取(商品として)古物商等特例で帳簿のみの保存で控除古物商の許可と古物台帳の記載
個人からの中古部品の買取当てはめ:商品(棚卸資産)として買い受ける古物なら古物商等特例の対象になりうる。当たらなければ経過措置棚卸資産(消耗品を除く)に当たるか。迷えば税理士に確認
社用車や積載車を個人から買う古物商等特例の対象外(自社で使う固定資産)。経過措置の対象Q&A 問106-2の区分
個人の事業者に払う紹介料経過措置請求書等の記載事項がそろっているか

古物商等特例との関係

中古車販売店にとって大きいのは古物商等特例です。Q&A 問106(令和8年5月改訂版)は中古車販売業そのものを設例にして、古物営業法の許可を受けた古物商が適格請求書発行事業者以外の者から古物(棚卸資産に当たるものに限る)を買い受けた場合、一定の事項を書いた帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとしています。この特例を使える仕入れには、経過措置の割合による減額がかかりません。

ただし、相手が登録事業者であれば適格請求書の受け取りと保存が必要です。また、免税店で消費税を免除された物品と知りながら仕入れた場合は、令和6年4月1日以後は特例の有無にかかわらず控除できません。帳簿の書き方は中古車仕入れの古物商等特例で詳しく扱っています。

少額特例との関係

基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間の課税売上高が5,000万円以下)の事業者は、令和11年(2029年)9月30日までの税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみの保存で控除できます(Q&A 問111)。相手が免税事業者でも対象です(同問の注2)。

判定は1回の取引の税込金額で行い、月まとめの請求書の合計で判定するのではありません(Q&A 問112)。1台ごとに5,000円で頼む近距離の回送なら少額特例、月額で契約している仕事なら経過措置、と分かれることがあります。判定単位の例は少額特例の判定単位にまとめています。

免税事業者との取引を見直すときの注意

経過措置の割合が下がるにつれ、外注先が免税事業者のままだと、発注側の負担は少しずつ増えます。そこで取引条件を見直す工場も出てきますが、進め方には気をつけたい点があります。

  • 相手の事情を聞かずに一方的に単価を下げる、取引を打ち切ると伝える、といった進め方は、独占禁止法をはじめとする関係法令に照らして問題がないか注意が必要です。条件を変えるときは話し合いの記録を残し、判断に迷えば専門家に相談してください
  • 国税庁インボイスQ&A 問29(令和8年5月改訂版)は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)の対象取引では、合意の有無にかかわらず振込手数料を売手に負担させて代金から差し引くことは禁止されている、と注記しています。外注費の支払方法を見直すときは、この点もあわせて確認しておくと安全です
  • 長く付き合いのある職人さんには、登録すると何が変わるのか(申告の手間、2割特例や3割特例の有無)を一緒に確認するほうが、関係を保ちやすくなります

見直しで比べたい二つの数字

免税事業者への外注費が年間税込330万円なら、消費税相当額は30万円です。令和8年10月以後の70%控除なら控除できるのは21万円で、控除できない部分は9万円になります。令和10年10月以後の50%控除なら15万円、令和12年10月以後の30%控除なら21万円が控除できない部分です。相手が登録した場合に相手側で増える手間や納税と、この差額を並べて話し合うと、双方が納得しやすくなります。

免税事業者の取引先が登録するときの手続

外注先が登録を決めた場合の手続も押さえておくと、相談を受けたときに説明できます。登録申請書は納税地を所轄する税務署長に提出します。e-Taxでも出せて、個人はスマートフォンからも申請できます。郵送する場合の送り先は各国税局のインボイス登録センターです(Q&A 問2)。

免税事業者には、登録しやすくするための経過措置があります。Q&A 問7(令和8年5月改訂版)によると、令和5年10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合、登録申請書に「登録希望日」(提出日から15日以降の日)を書けば、その日から課税事業者になれます。この場合、課税選択届出書を出す必要はありません。税務署の登録が希望日より後に完了しても、希望日に登録を受けたものとみなされます。

登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は、その翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは、免税事業者に戻れません(Q&A 問7の注1)。登録をすすめるときは、この2年の縛りも相手に伝えておくのが誠実です。

登録後の納税額を軽くする仕組みとして、2割特例と3割特例があります。2割特例は令和8年9月30日の属する課税期間までで終わり、暦年の個人なら令和8年分が最後です。令和9年分と令和10年分は、個人事業者に限って3割特例が設けられました(Q&A 問114-2)。基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件で、法人は使えません。内容は2割特例と3割特例の違いで解説しています。

自社が免税事業者の整備工場の場合の選択肢

立場が逆で、自社が免税事業者の整備工場もあります。お客様の大半が一般の個人なら、インボイスを求められる場面は多くありません。消費者には適格請求書の交付義務がないためです(Q&A 問24-3)。一方で、運送会社や営業車を持つ法人、リース会社などの車両を整備している工場は、取引先から登録の有無を聞かれることがあります。

選択肢取引先への影響自社の手間と負担
免税事業者のまま続ける法人の取引先は経過措置(令和8年10月から70%)でしか控除できない消費税の申告は不要のまま
登録して課税事業者になる(個人)取引先は通常どおり控除できる申告が必要。令和9年分・令和10年分は3割特例を検討できる
登録して課税事業者になる(法人)取引先は通常どおり控除できる申告が必要。簡易課税の選択も検討(Q&A 問9)

登録日の属する課税期間中に簡易課税制度選択届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を使えます(Q&A 問9)。どれが有利かは、法人顧客の売上の割合や外注費の大きさで変わるので、顧問税理士と試算してから決めてください。

整備工場・車販店が今やること

  • 外注先、陸送業者、紹介者など、個人や小規模の取引先を一覧にし、登録番号の有無を照合する
  • 免税事業者との取引は、帳簿で経過措置の対象と分かるように区分する(令和8年10月1日以後の仕入れは70%)
  • 9月から10月にまたがった外注は、作業完了日で80%か70%かを判定し直す
  • 中古車の買取は古物商等特例、税込1万円未満の小口仕入れは少額特例の対象かを先に確認する
  • 1者あたりの年間支払額が、上限(令和8年10月1日以後開始の課税期間は税込1億円)に近づいていないかを見る
  • 取引条件を見直すときは一方的に決めず、話し合いの記録を残す

取引先ごとの区分や、経過措置の対象仕入れの集計を整備システムで扱いたい場合は、無料相談からお問い合わせください。制度の全体像はインボイス制度の概要、システム選びの見方はインボイス対応の整備システムの選び方にあります。

よくある質問

免税事業者から仕入れると消費税は全く控除できないのですか?
経過措置があり、令和8年10月1日から令和10年9月30日までの課税仕入れは仕入税額相当額の70%を控除できます。その後は50%、30%と下がり、令和13年9月30日で終わります(Q&A 問113)。
80%と70%のどちらを使うかは、請求書の日付で決めますか?
課税仕入れの時期で決めます。役務は原則として作業の全部が完了した日、商品は原則として引渡しの日です(Q&A 問113-3)。9月に始めて10月に終わった外注作業は70%の対象です。
個人から中古車を買い取る場合も経過措置ですか?
古物商が商品として中古車を買い取る場合は、古物商等特例により一定事項を書いた帳簿のみの保存で控除できます(Q&A 問106)。社用車など自社で使う車として買う場合は特例の対象外で、経過措置の側で扱います。
外注先に登録をお願いしたら、すぐ登録できますか?
免税事業者は、登録申請書に提出日から15日以降の登録希望日を書けば、その日から課税事業者として登録を受けられます(Q&A 問7)。この経過措置は令和11年9月30日の属する課税期間まで使えます。
自社が免税事業者の整備工場ですが、登録しないといけませんか?
登録は義務ではありません。お客様が個人中心なら影響は小さく、法人の取引先が多い場合は登録の要否を検討する価値があります。個人事業者なら令和9年分・令和10年分の3割特例も含めて試算してください。

出典・参考資料

記載内容は2026年10月6日時点で国税庁等の公表資料を確認したものです。個別の取引の税務判断を示すものではありません。実際の申告・経理処理は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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