中古車販売店が一般のお客様から中古車を下取りしたり買い取ったりすると、相手はインボイスを出しません。それでも、古物商の許可を受けた事業者が販売用の在庫として買い取った場合は、古物商等特例により、決められた事項を書いた帳簿を保存するだけで仕入税額控除を受けられます。国税庁のインボイスQ&Aは、この特例を説明する問106の設例そのものを中古車販売業にしています。この記事では、問106の要件、相手が登録事業者だった場合の扱い、問110が定める帳簿の記載事項と古物台帳の使い方、免税購入品と特定金属くずの注意、下取りや個人からの買取など場面ごとの整理を、国税庁Q&Aの原文に沿ってまとめます。
古物商特例とインボイス(国税庁Q&A問106は中古車販売業の設例)
国税庁Q&A問106(令和8年5月改訂)の問いは、「当社は、中古車販売業(古物商)を営んでおり、事業者及び消費者から中古車の仕入れを行っています。適格請求書等保存方式の下では、消費者からの仕入れは、仕入税額控除を行うことはできないのですか。」というものです。答えは次のとおりです。
国税庁Q&A 問106【答】原文(抜粋)
古物営業法上の許可を受けて古物営業を営む古物商が、適格請求書発行事業者以外の者から同法に規定する古物(古物商が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限り、準古物を含みます。)を買い受けた場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消法30⑦、消令49①一ハ⑴)。したがって、貴社が消費者から中古車の仕入れを行った場合には、一定の事項を記載した帳簿を保存することで、仕入税額控除が認められます。
インボイス制度が始まると消費者からの仕入れは控除できなくなると心配されましたが、販売用の中古車を古物商として買い取る場合は、インボイスがなくても控除できる仕組みが用意されています。免税事業者から仕入れたときに使う経過措置(令和8年(2026年)10月1日からは70%控除)とは別の制度で、こちらは要件を満たせば仕入税額の全額が控除の対象です。
古物商特例とインボイスで押さえること
古物商等特例は、古物営業法の許可を受けた古物商が、インボイスを出せない相手(消費者、免税事業者、登録していない事業者)から、販売用の棚卸資産として古物を買い受けた場合に、帳簿の保存だけで仕入税額控除を認める制度です。国税庁Q&A問106は中古車販売業を設例にしており、消費者からの中古車の下取りや買取が典型例です。帳簿には通常の事項に加え、特例の対象である旨と相手の住所を書きます。相手が登録事業者ならインボイスを受け取って保存し、自社で使う社用車として買う場合はこの特例の対象外です。
古物商等特例の要件(相手が登録事業者でない・販売用の古物)
問106と消費税法施行令49条1項1号ハから、古物商等特例を使うための条件を整理すると次のようになります。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 買う側 | 古物営業法の許可を受けて古物営業を営む古物商 | 問106、消令49①一ハ⑴ |
| 売る側 | 適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者、登録していない課税事業者) | 問106、消令49①一ハ⑴ |
| 買うもの | 古物営業法に規定する古物(準古物を含む) | 問106 |
| 買う目的 | 事業として販売する棚卸資産(施行令の文言では消耗品を除く) | 問106、消令49①一ハ |
| 保存するもの | 一定の事項を記載した帳簿(問110) | 問106、問110 |
一つ目の条件のとおり、古物商の許可を持っていることが前提です。中古車の販売を業として行う店は通常この許可を受けていますが、整備工場が付随的に中古車を売っている場合は、許可の有無を確かめておきます。
二つ目の条件で注意したいのが、相手が登録事業者だった場合です。問106は、相手方が適格請求書発行事業者である場合は、適格請求書の交付を受け、それを保存する必要があるとしています。法人のお客様から社用車を下取りする場合など、相手が登録事業者であれば、インボイスを出してもらう必要があります。相手の登録の有無はインボイスの登録番号の確認方法で調べられます。
四つ目の条件は、販売用の在庫として買う場合に限るという意味です。国税庁Q&A問106-2は、固定資産など自ら使用する物品として仕入れるような場合を古物商等特例と分けて扱い、80%控除や7・5・3割控除の側で説明しています。中古車店が個人から自社の積載車や代車として使う車を買ったときは、古物商等特例は使えず、免税事業者等からの仕入れの経過措置で考えることになります(インボイス経過措置は2026年10月から70%に)。
古物商等特例の帳簿の記載事項(問110・古物台帳との組み合わせ)
帳簿のみの保存で控除を受けるには、通常の帳簿の記載事項に加えて二つの事項が要ります。国税庁Q&A問110(令和8年5月改訂)は、「帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨」と「仕入れの相手方の住所又は所在地」を挙げています。
| 帳簿の記載事項(問110) | 中古車の買取での例 |
|---|---|
| ①課税仕入れの相手方の氏名または名称と住所または所在地 | 下取りしたお客様の氏名と住所 |
| ②課税仕入れを行った年月日 | 車両の引渡しを受けた日 |
| ③課税仕入れに係る資産または役務の内容 | 車名、年式、車台番号など |
| ④課税仕入れに係る支払対価の額 | 買取価格(下取り額) |
| ⑤帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨 | 古物商等特例の対象である旨 |
住所が要らない場合もあります。問110の(注)は、古物営業法により業務に関する帳簿等へ相手方の氏名と住所を記載することとされているもの以外の取引については、住所の記載が不要としています(令和5年国税庁告示第26号)。言い換えると、古物台帳に相手の住所を書く決まりがある取引では、消費税の帳簿にも住所が要ります。
古物台帳と総勘定元帳を合わせて保存する方法
問110の(参考)は、古物営業法では商品を仕入れた際の対価の総額が原則として1万円以上(税込)の場合、古物台帳に取引年月日、古物の品目と数量、古物の特徴、相手方の住所、氏名、職業、年齢、相手方の確認方法を記載し、保存しなければならないとしています(古物営業法16条、18条)。そのうえで、古物台帳には帳簿の記載事項の①から④が記載されていることになると説明しています。
残る⑤の事項については、問110は、古物台帳と⑤の事項を記載した帳簿(総勘定元帳等)を合わせて保存することで、帳簿の保存要件を満たせるとしています。中古車店がすでに古物台帳を付けているなら、会計の帳簿の側で古物商等特例の対象である旨を書いておけば、二つを合わせて要件を満たせるということです。
⑤の「該当する旨」をどんな文言で書けばよいかについて、国税庁Q&Aの問110の例示は「3万円未満の鉄道料金」「自販機」などで、古物商等特例の文言例は見当たりませんでした。社内で統一した書き方を顧問税理士と決めておくと安心です。
保存期間にも注意が要ります。問110は、この方法をとる場合、古物台帳についても帳簿の保存期間(課税期間に係る確定申告書の提出期限の翌日から7年間)保存しておく必要があるとしています(消費税法施行令71条2項)。古物営業法で決められた保存期間とは別に、消費税のために7年間残す必要がある点を、台帳の保管ルールに反映させてください。
インターネットのフリマアプリやオークションで仕入れた場合について、問106-2は、対価の総額が1万円以上の準古物の仕入れで相手の住所、氏名、職業、年齢を確認できないような場合には、80%控除や7・5・3割控除の適用を受けることは可能だとしています。住所が帳簿に書けないときは、古物商等特例ではなく経過措置の側で控除することになります。
免税購入品と特定金属くずの注意(中古車は古物商等特例のまま)
免税購入品と知りながら買った場合
問106の(注)2は、令和6年(2024年)4月1日以後、輸出物品販売場(いわゆる免税店)で消費税が免除された物品(免税購入品)であることを知りながら行った課税仕入れは、古物商等特例の適用の有無にかかわらず、仕入税額控除を受けられないとしています。中古車の買取で直接問題になる場面は少ないと思われますが、カー用品や部品、工具などを持ち込みで買い取る店は、買取時の確認の手順に入れておくとよいでしょう。
令和8年9月1日以後の特定金属くず
令和8年度の税制改正で、金属盗対策法に規定する特定金属くずが、古物商特例や再生資源等特例の対象から外されました。そのうえで、同法の特定金属くず買受業の届出を行っている事業者が、適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産(消耗品を除く)として買い受ける特定金属くずについて、帳簿のみの保存で控除を認める特定金属くず特例が設けられました。令和8年(2026年)9月1日以後に行う課税仕入れから適用されています。
中古車そのものへの影響はありません。金属盗対策法の「特定金属くず」の定義は、古物営業法に規定する古物に該当するものを除いているため、古物である中古車は、これまでどおり古物商等特例の対象です。一方、解体で出た金属スクラップの扱いや、どこからが特定金属くずに当たるかの具体例は、国税庁の資料で確認できませんでした。スクラップを買い取っている事業者は、届出の要否も含めて個別に確認してください。
このほか問106は、再生資源卸売業など、不特定かつ多数の者から再生資源や再生部品を購入する事業を営む事業者が、適格請求書発行事業者以外の者から販売用の再生資源や再生部品を購入する場合も、帳簿のみの保存で控除を認めています。中古部品を扱う事業者は、自社がどの特例に当たるかを確認しておきます。
下取り・業者オークション・個人からの買取の場面整理
中古車店の仕入れの場面ごとに、インボイスの扱いを整理すると次のようになります。問106と問106-2の原則を当てはめたもので、個別の取引の判断は顧問税理士に確認してください。
| 仕入れの場面 | 相手 | 控除に必要なもの |
|---|---|---|
| 新車・中古車の販売に伴う下取り(販売用の在庫にする) | 個人のお客様(消費者) | 古物商等特例。問110の事項を書いた帳簿 |
| 店頭や出張での個人からの買取(販売用) | 個人(消費者) | 古物商等特例。古物台帳と総勘定元帳の組み合わせも可 |
| 法人のお客様からの社用車の下取り | 登録事業者の法人 | 相手からの適格請求書の保存 |
| 個人事業者や免税の法人からの買取(販売用) | 適格請求書発行事業者以外の事業者 | 古物商等特例 |
| 業者オークションでの仕入れ | 出品者(主に事業者) | 原則は相手が登録事業者かで分かれる。会場を通じて出る書類の扱いは会場と顧問税理士に確認 |
| 自社で使う積載車や代車を個人から買う | 個人 | 古物商等特例の対象外。経過措置の割合(2026年10月から70%)で控除 |
業者オークションについては、出品者の多くが事業者で、会場を通じて精算書などの書類が出ます。こうした書類がインボイスの代わりになるかどうかは、オークション会場の運用と国税庁Q&Aの別の問に関わるため、この記事では扱いません。会場の案内と顧問税理士で確認してください。
下取りで迷いやすいのは、同じ下取りでも相手によって扱いが変わる点です。個人のお客様からの下取りは古物商等特例で処理できますが、登録している法人や個人事業者から事業用の車を下取りする場合は、その相手からインボイスを受け取る必要があります。下取りの査定書や契約書に、相手が事業者か、登録番号があるかを確認する欄を設けておくと、後で帳簿を付けるときに迷いません。取引先が免税事業者だったときの全体の考え方は取引先・外注先が免税事業者のときをご覧ください。
整備工場・車販店が今やること
- 自社が古物商の許可を受けているか、許可証の内容を確認する
- 下取りや買取の契約書、査定書に、相手が事業者か、登録番号があるかを確かめる欄を設ける
- 古物台帳に相手の住所と氏名が記載されているかを確認し、消費税の帳簿の側に古物商等特例の対象である旨を書く運用を決める
- 古物台帳を確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存するよう、保管のルールを見直す
- 社用車や代車として買う車は、販売用の在庫と分けて記帳する
- スクラップや再生部品を買い取っている場合は、特定金属くず特例や再生資源等の特例に当たるかを確認する
車両の仕入れを整備システムや車販システムで管理している場合は、仕入先ごとに登録事業者か、古物商等特例の対象かを持てるか、会計ソフトへ渡す際に特例の対象である旨が引き継がれるかを確認しておくと、決算のときの手直しが減ります。日本カーネットでは、整備システム・整備ソフト DREAM POWERを含め、車両販売とインボイスの管理を見直したい事業者の無料相談を受け付けています。インボイスに関わる特例の一覧はトップページの特例と期限、帳簿の付け方全般は経過措置の帳簿の記載方法、電子データの保存はインボイスと電子帳簿保存法にまとめています。
よくある質問
- 中古車をお客様から下取りしたとき、インボイスがなくても仕入税額控除はできますか?
- 古物商の許可を受けた事業者が、販売用の在庫として消費者から中古車を下取りした場合は、古物商等特例により、決められた事項を書いた帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。国税庁Q&A問106が中古車販売業を設例に説明しています。
- 相手が登録事業者の場合も古物商等特例を使えますか?
- 使えません。古物商等特例は、適格請求書発行事業者以外の者から買い受けた場合の制度です。相手が登録事業者なら、適格請求書の交付を受けて保存する必要があると問106に書かれています。
- 帳簿には何を書けばよいですか?
- 相手の氏名または名称と住所または所在地、年月日、内容、金額に加え、帳簿のみの保存で控除が認められる仕入れに該当する旨を書きます。古物台帳に①〜④が書かれていれば、該当する旨を書いた総勘定元帳等と合わせて保存する方法も国税庁Q&A問110で認められています。
- 古物台帳はいつまで保存しますか?
- 古物台帳を帳簿の一部として使う場合は、課税期間に係る確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があると国税庁Q&A問110が説明しています。
- 社用車として個人から買った車にも古物商等特例は使えますか?
- 使えません。古物商等特例は販売用の棚卸資産として買う場合に限られます。自社で使う車は、免税事業者等からの仕入れの経過措置(令和8年10月1日からは70%)で控除を考えます。
出典・参考資料
- 国税庁 インボイスQ&A 問106・問106-2(令和8年5月改訂版 第Ⅳ章3 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-13.pdf - 国税庁 インボイスQ&A 問110(令和8年5月改訂版 第Ⅳ章4 帳簿の保存)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-14.pdf - e-Gov法令検索 消費税法施行令(第49条第1項第1号ハ・第71条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/363CO0000000360 - 国税庁 インボイス制度 令和8年度税制改正特集(特定金属くず特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/index.htm - 国税庁 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(目次)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_01.htm
記載内容は2026年10月6日時点で国税庁等の公表資料を確認したものです。個別の取引の税務判断を示すものではありません。実際の申告・経理処理は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
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