免税事業者など、インボイスを出さない相手からの仕入れで経過措置(令和8年(2026年)10月1日からは70%控除)を受けるには、帳簿と請求書等の両方を保存する必要があります。帳簿には、通常の記載事項に加えて「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を書きます。国税庁Q&Aが示している記載例は「80%控除対象」「免」で、70%の期間に合わせた記載例はまだ載っていません。この記事では、要件の原文、国税庁が示している書き方、記号でまとめて注記する方法、9月と10月の境目で帳簿を分けるときの注意、整備システムや会計ソフトで区分を持てるかの確認点を順に整理します。
インボイス経過措置を受けるための帳簿と請求書等の要件
国税庁Q&A問113は、経過措置の適用を受けるためには、決められた事項を記載した帳簿と請求書等の保存が要件になると説明しています。帳簿のほうは原則的な記載事項に加えて経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を書き、請求書等のほうは区分記載請求書等と同様の事項が記載されたものを保存します。請求書等には電磁的記録も含まれます。
| 保存するもの | 記載が必要な事項(国税庁Q&A問113) |
|---|---|
| 帳簿 | ①課税仕入れの相手方の氏名または名称 ②課税仕入れを行った年月日 ③課税仕入れに係る資産または役務の内容(軽減税率の対象ならその旨)と、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨 ④課税仕入れに係る支払対価の額 |
| 請求書等 | ①書類の作成者の氏名または名称 ②課税資産の譲渡等を行った年月日 ③資産または役務の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨) ④税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額 ⑤書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 |
請求書等の記載事項は、インボイス制度が始まる前の区分記載請求書と同じ形です。登録番号や消費税額の記載は求められていません。免税事業者の外注先が手書きの請求書を出してくる場合でも、この5項目がそろっていれば足ります。
請求書に書かれていない事項を、受け取った側が書き足せる範囲も決まっています。Q&A問113の(参考2)は、「軽減対象資産の譲渡等である旨」と「税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額」の記載がない場合に限って、受領者が自ら追記して保存することを認めています。相手の名称や日付、内容が抜けている場合は、追記ではなく、相手に書き直してもらうことになります。
インボイス経過措置の帳簿記載で押さえること
経過措置の対象になる課税仕入れは、帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を書かないと、仕入税額の70%(令和8年9月30日までは80%)を控除できません。国税庁Q&A問113は、この旨の書き方として「80%控除対象」「免」を例示し、取引ごとに書く方法のほか、「※」や「☆」の記号を付けて別に凡例を示す方法も認めています。請求書等は、相手の名称、年月日、内容、税率ごとの税込合計額、受け取る側の名称の5項目が要り、登録番号は不要です。帳簿と請求書等は、どちらも7年間保存します。
経過措置の帳簿の記載例(国税庁の例示は「80%控除対象」「免」)
帳簿に書く「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」について、国税庁Q&A問113の原文は次のとおりです。
国税庁Q&A 問113(参考1)原文
③の「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」の記載については、個々の取引ごとに「80%控除対象」、「免税事業者からの仕入れ」などと記載する方法のほか、例えば、本経過措置の適用対象となる取引に、「※」や「☆」といった記号・番号等を表示し、かつ、これらの記号・番号等が「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を別途「※(☆)は80%控除対象」などと表示する方法も認められます。
問113の本文にも、帳簿の記載例として「80%控除対象」「免」が挙がっています。この例示は、問113が令和8年4月に改訂された後も変わっていません。私たちが国税庁Q&Aの全章を確認した範囲では、「70%控除対象」という記載例は見当たりませんでした。
一方、国税庁の「令和8年度税制改正特集」では、経過措置を受けるための帳簿について次の表現が使われています。
国税庁 令和8年度税制改正特集より
この経過措置による仕入税額控除の適用に当たっては、免税事業者等から受領する区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存とこの経過措置の適用を受ける旨(「80%控除」・「7・5・3割控除」を受ける課税仕入れである旨)を記載した帳簿の保存が必要です。
つまり、令和8年(2026年)10月1日以後の取引で帳簿に書く内容は「7割控除を受ける課税仕入れである旨」と読めます。ただし、「70%控除対象」と書けば足りると国税庁が明示した資料は、2026年10月6日時点で確認できませんでした。Q&Aの例示は「例えば」と前置きされた例で、決まった文言を求めるものではないとも読めます。迷う場合は、例示に近い形で「免」や「免税事業者からの仕入れ」と書き、割合の区分は別の列や税区分で持つ方法が考えられます。最終的な書き方は顧問税理士と決めてください。
| 書き方 | 例 | 国税庁資料での位置づけ |
|---|---|---|
| 取引ごとに文言を書く | 「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」 | Q&A問113に例示あり |
| 略記で書く | 「免」 | Q&A問113本文に例示あり |
| 記号を付けて凡例を別に示す | 取引に「※」、凡例に「※は80%控除対象」 | Q&A問113(参考1)で認められている |
| 70%の期間の文言 | 「70%控除対象」「7割控除」など | 国税庁の例示なし。改正特集は「7・5・3割控除を受ける課税仕入れである旨」と表現 |
記号でまとめて注記する方法(※や☆を使う帳簿の付け方)
取引の件数が多い工場では、1件ずつ文言を書くより、記号を付けて凡例をまとめて示すほうが手間が少なく済みます。Q&A問113(参考1)が認めている方法で、80%の期間と70%の期間で記号を分けておけば、申告のときに集計しやすくなります。次の表は、記号を使った帳簿の記載イメージです。国税庁の様式ではなく、取引先名と金額は説明のための仮のものです。
| 日付 | 相手方 | 内容 | 金額(税込) | 記号 |
|---|---|---|---|---|
| 令和8年9月26日 | 山田板金(個人) | 外注費 リアバンパー塗装 | 44,000円 | ※ |
| 令和8年10月3日 | 山田板金(個人) | 外注費 フロントドア板金 | 66,000円 | ☆ |
| 令和8年10月8日 | 佐藤陸送(個人) | 外注費 陸送 2台 | 22,000円 | ☆ |
| 令和8年10月15日 | 鈴木タイヤ(未登録) | 仕入 中古タイヤ 4本 | 33,000円 | ☆ |
凡例は帳簿の冒頭や各ページの欄外に「※は経過措置(80%控除)の対象、☆は経過措置(7割控除)の対象」のように書いておきます。会計ソフトで帳簿を付けている場合は、摘要欄に記号を入れて、凡例を帳簿の出力に含める形が使えます。記号の意味が帳簿のどこかで分かるようにしておくことが、この方法の条件です。
「※」と「☆」をどちらの割合に使うかは任意です。ただ、令和10年(2028年)10月からは50%、令和12年(2030年)10月からは30%と区分が増えます。記号を割合ごとに増やすより、「免」などの記号は共通にして、日付で割合を判定する運用のほうが続けやすい場合もあります。
9月と10月の境目で帳簿を分けるときの注意
80%と70%のどちらを使うかは、国税庁Q&A問113-3によると課税仕入れの時期で決まります。役務は原則としてその役務が全部完了した日、商品は原則として引渡しを受けた日で判断します。請求書の日付や支払日ではありません。
たとえば、9月26日に頼んで10月2日に仕上がった塗装外注は、完了日が10月なので70%の区分になります。9月29日に届いた部品の請求が10月末締めで来た場合は、引渡しが9月なので80%の区分です。月末締めの請求書を受け取ってから帳簿を付ける工場では、請求書の明細を作業完了日や納品日ごとに分けて、二つの区分に振り分ける作業が10月分だけ発生します。割合の判定の詳しい説明と計算例は、インボイス経過措置は2026年10月から70%ににまとめています。
登録している事業者から届いた請求書に登録番号が書かれていない場合も、帳簿の書き方に関わります。国税庁Q&A問113-2によると、区分記載請求書等の記載事項を満たしたものの保存があれば、相手が登録事業者でも一律に経過措置の適用を受けます。この場合も帳簿には経過措置の適用を受ける旨を書くことになります。番号の書き漏れなのか、相手が登録をやめたのかは、インボイスの登録番号の確認方法で調べられます。
帳簿と請求書等の保存期間は、どちらも7年間です。国税庁Q&A問110は帳簿の保存期間を課税期間に係る確定申告書の提出期限の翌日から7年間と説明しており(消費税法施行令71条2項)、仕入税額控除のために保存する請求書等も、問78・問79の説明どおり同様に7年間の保存が求められます(同施行令50条1項)。請求書をPDFやメールで受け取っている場合は、電子データのまま保存する決まりにも注意が要ります。詳しくはインボイスと電子帳簿保存法をご覧ください。
整備システム・会計ソフトで経過措置を区分できるかの確認点
帳簿を手書きで付けている工場は少なく、多くは会計ソフト、または整備システムから会計ソフトへデータを渡して付けています。経過措置の記載を人の手で毎回書き足すのは負担が大きいため、使っているシステムで次の点を確かめておくと安心です。
- 免税事業者等からの仕入れ用の税区分を、80%と70%で別々に持てるかを確認します。
- 取引日や納品日に応じて、10月1日を境に区分を自動で切り替えられるか、手で選ぶ必要があるかを確かめます。
- 仕入先や外注先の登録に、登録番号の有無や免税事業者であることを持たせられるかを見ます。
- 帳簿の出力に、経過措置の適用を受ける旨(文言や記号と凡例)が載るかを確認します。
- 整備伝票で入力した外注費や部品仕入が会計ソフトへ渡るとき、税区分が引き継がれるかを確かめます。
- 令和10年(2028年)10月の50%、令和12年(2030年)10月の30%への改正にも、更新で追従する予定があるかをメーカーに聞いておきます。
区分の設定が足りない場合、申告前にまとめて仕訳を直す作業が毎年出てきます。日本カーネットでは、整備システム・整備ソフト DREAM POWERを含め、経過措置の区分や帳簿への連携をどう持たせるかについて無料相談を受け付けています。どんな整備システムを選べばよいかの考え方は整備システム選びのチェックリストでも整理しています。
整備工場・車販店が今やること
- 免税事業者や未登録の仕入先、外注先を洗い出し、帳簿に経過措置の旨を書く対象を決める
- 受け取っている請求書等に、5つの記載事項がそろっているかを確認する。足りない場合は追記できる範囲か、書き直しが要るかを見分ける
- 帳簿の書き方(文言か記号か、70%の期間の表記)を顧問税理士と決め、社内で統一する
- 9月と10月にまたがった取引を、作業の完了日や引渡しの日で80%と70%に振り分ける
- 整備システムや会計ソフトの税区分の設定を見直し、10月以後の取引が70%の区分に入るようにする
税込1万円未満の仕入れは、要件を満たせば少額特例で帳簿のみの保存により全額を控除でき、この場合は帳簿に特例の適用を受ける旨を書く必要がありません。販売用の中古車を消費者から買い取る場合は古物商等特例で、帳簿の記載事項が別に決まっています。外注先が免税事業者だったときの取引の考え方は取引先・外注先が免税事業者のときをご覧ください。自社が出す請求書の書き方は姉妹サイトの整備・車検の請求書テンプレート、領収書はインボイス対応の領収書で扱っています。
よくある質問
- 経過措置を受けるために帳簿には何を書けばよいですか?
- 相手方の氏名または名称、年月日、資産や役務の内容、支払対価の額に加えて、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を書きます。国税庁Q&A問113は「80%控除対象」「免」などを例示しています。
- 2026年10月以後の取引は「70%控除対象」と書けばよいですか?
- 国税庁Q&Aに「70%控除対象」という記載例はなく、そう書けば足りるとした国税庁の明示も確認できませんでした。国税庁の改正特集は「7・5・3割控除を受ける課税仕入れである旨」と表現しています。書き方は顧問税理士と決めてください。
- 記号でまとめて書いてもよいですか?
- 取引に「※」や「☆」などの記号を付け、その記号が経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を別に表示する方法が、国税庁Q&A問113(参考1)で認められています。
- 免税事業者の請求書に必要な記載事項は何ですか?
- 作成者の氏名または名称、年月日、内容、税率ごとに合計した税込価額、受け取る事業者の氏名または名称の5つです。登録番号は要りません。軽減税率の旨と税率ごとの合計額に限り、受け取った側が追記できます。
- 帳簿と請求書はいつまで保存しますか?
- どちらも7年間保存します。帳簿は確定申告書の提出期限の翌日から7年間で、仕入税額控除のための請求書等も同様に7年間の保存が求められると国税庁Q&A問78と問110で説明されています。
出典・参考資料
- 国税庁 インボイスQ&A 問113(参考1・参考2)・問113-2・問113-3(令和8年5月改訂版 第Ⅳ章5 経過措置)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-15.pdf - 国税庁 インボイスQ&A 問110(令和8年5月改訂版 第Ⅳ章4 帳簿の保存)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-14.pdf - 国税庁 インボイスQ&A 問78・問79(令和8年5月改訂版 一括PDF)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf - 国税庁 インボイス制度 令和8年度税制改正特集
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/index.htm - 国税庁 令和8年度税制改正特集(PDF版)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/pdf/0026004-099-01-2.pdf
記載内容は2026年10月6日時点で国税庁等の公表資料を確認したものです。個別の取引の税務判断を示すものではありません。実際の申告・経理処理は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
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