適格簡易請求書は、小売業や飲食店業など不特定多数の相手と取引する事業に認められた、記載事項を簡単にしたインボイスです。いわゆる簡易インボイスで、お客様の名前(宛名)を書かなくてよく、消費税額か適用税率のどちらか一方を書けば足ります。整備工場や中古車販売店でも、店頭での用品販売やオイル交換など、レシートで済ませたい場面があります。ただし、国税庁の資料には自動車整備業や自動車販売業が対象になるかどうかの記述がありません。この記事では、対象事業の条文、記載事項、国税庁が示した例を確認したうえで、整備・車販での使い分けを当てはめとして整理します。
適格簡易請求書を交付できる事業(消費税法施行令70条の11)
適格簡易請求書を出せる事業は、消費税法57条の4第2項を受けた消費税法施行令70条の11に列挙されています。条文の原文は次のとおりです。
消費税法施行令 第70条の11(e-Gov)
一 小売業、飲食店業、写真業及び旅行業
二 道路運送法第三条第一号ハ(種類)に規定する一般乗用旅客自動車運送事業(中略)
三 駐車場業(不特定かつ多数の者に自動車その他の車両の駐車のための場所を提供するものに限る。)
四 前三号に掲げる事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うもの
国税庁インボイスQ&A 問24(令和8年(2026年)5月改訂版)は、これを①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)、⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業、の7つに整理しています。
問24によると、①から⑤には「不特定かつ多数の者に対するもの」という限定がありません。たとえば小売業として行う課税資産の譲渡等は、形態を問わず適格簡易請求書を交付できます。一方、⑦の「準ずる事業」に当たるかどうかは「個々の事業の性質により判断します」とされ、該当する例として次の2つが挙げられています。
- 相手方の氏名等を確認せず、取引条件等をあらかじめ示して、相手を問わず広く資産の譲渡等を行うことが常態である事業
- 事業の性質上、相手方の氏名等を確認するものであっても、相手を問わず広く一般を対象に資産の譲渡等を行っている事業(取引のたびに相手を特定し、相手ごとに個別に行う取引が常態の事業は除く)
問24-2(令和8年5月改訂版)は、氏名等を確認するものでも、ホテル・旅館等の宿泊サービス、航空サービス、レンタカー事業なども含まれるとしています。他方、相手方を一意に特定したうえで契約し、その契約の内容に応じて個々に取引するもの(電気・ガス・水道水の供給、電話料金など)は、一般的には対象に当たらないとしています。
適格簡易請求書の記載事項と適格請求書との違い
記載事項は国税庁インボイスQ&A 問58(令和8年5月改訂版)に示されています。適格請求書(6項目)と比べると、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」が不要な点と、「税率ごとに区分した消費税額等」または「適用税率」のいずれか一方で足りる点が違います。
| 記載事項 | 適格請求書 | 適格簡易請求書 |
|---|---|---|
| 発行者の氏名又は名称と登録番号 | 必要 | 必要 |
| 取引年月日 | 必要 | 必要 |
| 取引の内容(軽減税率対象ならその旨) | 必要 | 必要 |
| 税率ごとに区分した合計額(税抜又は税込) | 必要(適用税率も) | 必要 |
| 税率ごとに区分した消費税額等 | 必要 | 消費税額等か適用税率のどちらか一方(両方でも可) |
| 交付を受ける者の氏名又は名称(宛名) | 必要 | 不要 |
問58-2(令和8年5月改訂版)は手書きの領収書の記載例を示し、宛名は省略でき、「上様」の表記も可能としています。税込価額を書けば税抜価額は書かなくてよいとも述べています。消費税額を記載する場合の端数処理は、適格請求書と同じく一の書類につき税率ごとに1回です(問59)。詳しくはインボイスの端数処理で説明しています。
適格簡易請求書でも、発行者の登録番号は省略できません。登録番号の無いレシートは適格簡易請求書になりません。取引先の番号の調べ方は登録番号の確認方法にまとめています。
自動車整備業・自動車販売業は適格簡易請求書の対象か
国税庁インボイスQ&Aの本体と、国税庁の「インボイスの取扱いに関するご質問」(令和8年4月1日更新)を確認した範囲では、自動車整備業や自動車販売業が適格簡易請求書を交付できる事業に当たるかを明記した記述はありません。ここから先は、問24と問24-2の考え方を当てはめた整理(確度B)です。
| 場面 | 当てはめ(確度B) | 無難な対応 |
|---|---|---|
| カー用品、タイヤ、オイルなどの店頭販売 | 物の販売で、小売業として行う譲渡なら形態を問わず対象と読める(問24) | 登録番号入りのレシートで対応し、法人客から求められたら宛名を記入する |
| 中古車の店頭販売 | 小売業として行う譲渡と読める余地がある | 注文書や契約で相手が特定されるので、宛名入りの適格請求書を出す流れが自然 |
| 車検、点検、修理などの整備 | 顧客ごとに見積もり、車両を特定して作業する形は、問24-2の「相手方を一意に特定したうえで契約」に近い | 宛名入りの適格請求書で出す |
| 予約なしで料金表どおりに行う店頭作業(オイル交換など) | 「取引条件等をあらかじめ提示して相手方を問わず広く」行う形に近いが、国税庁の明記はない | レシートは登録番号入りにし、事業者のお客様には宛名入りの請求書か領収書を出す |
| 代車をわナンバーのレンタカーとして貸す | レンタカー事業は問24-2に例示あり | レンタカー事業として行う貸渡しなら例示に当たる。法人客には宛名入りが親切 |
整備は、車検証で車両と所有者を確認し、お客様ごとに見積もりを出して作業する取引です。この形は、問24-2が対象外の例として挙げた「その相手方を一意に特定したうえで契約を行い、その契約に係る取引の内容に応じて個々に」行う取引に近いと考えられます。国税庁がそう判断したわけではありませんが、迷ったら整備は宛名入りの適格請求書で出しておくのが無難です。適格簡易請求書は適格請求書に「代えて」交付できるもの(問24)なので、宛名入りの適格請求書を出すこと自体に支障はありません。
店頭のオイル交換や用品販売での適格簡易請求書の考え方
店頭のレジでオイル交換や用品の会計をする場面では、レシートに宛名を書く運用は現実的ではありません。ここで押さえておきたいのは、交付義務がかかる相手の範囲です。
適格請求書の交付義務は、課税事業者である相手から求められたときにかかります(消法57の4①、問23)。問24-3(令和8年5月改訂版)によると、消費者には交付義務がありませんが、課税事業者から求められたら、利用規約等にかかわらず交付する義務があります。店頭のお客様の多くが個人でも、営業車のオイル交換に来た課税事業者の法人や個人事業主から求められれば応じる必要があります。
- レジのレシートを、登録番号、取引年月日、内容、税率ごとの合計、消費税額か適用税率が載る形にしておく
- 課税事業者のお客様から求められたら、宛名を書き入れるか、宛名入りの請求書・領収書を出す
- 工賃を含む作業と物販が同じ会計に入る場合も、税率ごとの合計と端数処理は1枚につき1回にする
自社が適格簡易請求書を出せる事業に当たるか判断がつかない場合でも、上の3つを満たしておけば、宛名を書き足すだけで適格請求書の形になります。宛名の扱いについて顧問税理士と確認しておくと、店頭での対応に迷いません。
なお、問24は、適格簡易請求書についても交付に代えて記載事項に係る電磁的記録を提供できるとしています(消法57の4⑤)。レシートをメールやアプリで送る運用も、記載事項がそろっていれば同じ扱いです。電子で受け渡したデータの保存方法は、電子帳簿保存法とインボイスの保存で整理しています。
整備工場・車販店が今やること
- レジのレシートと手書き領収書に、登録番号と税率ごとの合計が入っているかを確認する
- 整備(車検、点検、修理)の請求書は宛名入りの適格請求書で出す
- 店頭の物販やオイル交換で、課税事業者から宛名入りを求められたときの出し方を決めておく
- 法定費用を同じ請求書に載せる場合は、立替金と車検の法定費用の区分にそろえる
- お客様に免税事業者が多い業態なら、インボイス対応の請求書の選び方もあわせて確認する
店頭のレシートと整備の請求書を別々の仕組みで出していると、記載事項の抜けが起きやすくなります。お使いの整備システム・整備ソフトで、宛名あり・宛名なしの両方の書式を出せるか、レシートにも登録番号が載るかを確認してください。日本カーネットでは、整備システム・整備ソフト DREAM POWER の帳票を含めて請求書・領収書の無料相談を受け付けています。
よくある質問
- 適格簡易請求書と適格請求書の違いは何ですか?
- 適格簡易請求書は宛名(交付を受ける者の氏名又は名称)が不要で、消費税額等か適用税率のどちらか一方を書けば足ります(問58)。発行者の名称と登録番号、取引年月日、内容、税率ごとの合計額は両方に必要です。
- 適格簡易請求書を出せるのはどんな事業ですか?
- 消費税法施行令70条の11に定める小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業と、これらに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業です。準ずる事業かどうかは個々の事業の性質で判断します(問24)。
- 自動車整備工場は適格簡易請求書を出せますか?
- 国税庁の資料に整備業の明記はありません。顧客ごとに見積もりを出して作業する整備は、問24-2が対象外の例として挙げる取引に近いため、宛名入りの適格請求書で出すのが無難です(当てはめ)。
- レンタカーは適格簡易請求書の対象ですか?
- 問24-2(令和8年5月改訂版)に、氏名等を確認するものでも相手を問わず広く一般を対象にするレンタカー事業は含まれると例示されています。
- 適格簡易請求書の宛名は「上様」でもよいですか?
- 問58-2の手書き領収書の記載例に、宛名は省略可能で「上様」の表記も可能と注記されています。
出典・参考資料
- 国税庁 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和8年5月改訂版)問23・問24・問24-2・問24-3・問58・問58-2・問59
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf - 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 一覧
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_01.htm - 国税庁 インボイス制度特設サイト
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm - e-Gov法令検索 消費税法施行令(第70条の11)
https://laws.e-gov.go.jp/law/363CO0000000360 - e-Gov法令検索 消費税法(第57条の4)
https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000108
記載内容は2026年10月6日時点で国税庁等の公表資料を確認したものです。個別の取引の税務判断を示すものではありません。実際の申告・経理処理は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
インボイス対応の整備システムを相談する
2026年10月からの控除割合70%への切り替えのように、制度の改正は続きます。いま使っている整備システム・整備ソフトで適格請求書や経過措置の帳簿記載に対応できるか、日本カーネットの担当者が無料でご相談に応じます。
お電話:03-5256-7877平日 9:00〜12:00・13:00〜18:00







