振込手数料とインボイス|売上値引きと支払手数料の処理を国税庁Q&Aで確認

請求額から振込手数料が差し引かれて入金されることは、整備工場でも中古車販売店でも珍しくありません。法人のお客様、リース会社、業者間の車両売買などで起きやすい場面です。インボイス制度のもとでは、この差し引かれた金額を売上値引きとして処理するか、支払手数料として処理するかで、必要な書類が変わります。国税庁インボイスQ&A(令和8年(2026年)5月改訂版)の問27から問30をもとに、それぞれの処理と書類を整理します。あわせて、令和8年4月の改訂で、取適法の対象取引では振込手数料を差し引くこと自体が禁止されていると明記された点も確認します。

振込手数料とインボイスの関係

問題になるのは「売手が負担する振込手数料」です。たとえば工場が10,000円を請求し、お客様が振込手数料440円を差し引いて9,560円を振り込んだとします。この440円を工場がどう扱うかについて、国税庁インボイスQ&A 問29(令和8年5月改訂版)は、取引当事者間の契約関係等により対応が分かれるとして、次の3つの考え方を示しています。

処理の考え方工場(売手)側の扱い必要な書類根拠
1. 売上値引き(対価の返還等)売上げを440円減らす原則は適格返還請求書。税込1万円未満なら交付義務免除問27・問28・問29の答1
2. 買手から「代金決済上の役務提供」を受けた対価440円を課税仕入れ(支払手数料)とする買手が出す適格請求書、または工場が作る仕入明細書等(買手の確認が必要)問29の答2
3. 買手が金融機関に立替払した金融機関からの課税仕入れとする金融機関の適格請求書と買手が作る立替金精算書等。ATM振込なら帳簿のみで可問29の答3

1の売上値引きとして処理すれば、次の節で説明する1万円未満の免除により、多くの場合は書類のやりとりが要らなくなります。2と3は、取引先から書類を受け取る手間が残ります。

振込手数料を売上値引きにする場合の返還インボイス(問27・問28)

売上値引きは、消費税法上は「売上げに係る対価の返還等」に当たります。適格請求書発行事業者が課税事業者に対価の返還等をしたときは、原則として適格返還請求書(返還インボイス)を交付する義務があります(消法57の4③)。

税込1万円未満は交付義務が免除される

問27は「売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されます(消法57の4③、消令70の9③二)」としています。問29も、振込手数料相当額は一般的に1万円未満と考えられるので、その場合は交付義務が免除されると説明しています。

1万円未満かどうかの判定単位は、問28に書かれています。返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとに減額した金額で判定します(基通1-8-17)。問28の例は次の2つです。

問28の例判定
500,000円の請求に対し、買手が振込手数料相当額440円を減額して499,560円を支払った(売手は440円を対価の返還等として処理)1万円未満の対価返還等で、適格返還請求書の交付義務は免除
400,000円の請求に関し、1商品当たり100円のリベートを後日支払った(合計20,000円)1万円以上の対価返還等で、交付義務は免除されない

請求額がいくら大きくても、差し引かれた手数料が1回の請求について1万円未満なら免除になります。別々の請求で差し引かれた手数料を、1か月分まとめて合算して判定するわけでもありません。問28の(注)は、値引きの中に標準税率と軽減税率の分が混ざっていても、税率ごとの金額で判定するのではなく、請求や債権の単位ごとの減額金額で判定するとしています。

適用税率は、もとの売上げの税率に従います。問29は、軽減税率(8%)対象の売上げに対する振込手数料相当額の売上値引きには8%が適用されると述べています。整備や車両販売の売上げは通常10%なので、差し引かれた手数料の値引きも10%として扱うことになります。

振込手数料を支払手数料として処理する場合の書類(問29・問30)

差し引かれた440円を「支払手数料」として経理している会社も多いはずです。この場合、消費税法上の扱いによって必要な書類が変わります。

買手から役務の提供を受けたとみる場合

問29の答2は、売手の買手に対する販売と、買手の売手に対する「代金決済上の役務の提供」は、別々の課税資産の譲渡等になるとしています。工場が440円について仕入税額控除を受けるには、買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要です。工場が仕入明細書等を作り、買手の確認を受けて控除する方法もあります(消法30⑨三)。

買手が金融機関に立て替えたとみる場合

問29の答3では、工場は、買手が金融機関から受け取った振込手数料の適格請求書と、買手が作成した立替金精算書等の交付を受けて仕入税額控除を行います。この場合、買手が差し引く金額が金融機関の振込手数料と同額である必要があります。買手がATMで振り込んだときは、ATM手数料が3万円未満の自動販売機特例の対象になり、工場は一定の要件のもとで帳簿のみの保存で控除できます。立替金の一般ルールは立替金とインボイスで整理しています。

経理は支払手数料のまま、消費税は対価の返還等にする方法

問30(令和8年5月改訂版)は、支払手数料として処理していたものを対価の返還等の処理に変えることは「問題なく」、また、経理処理を支払手数料としつつ、消費税法上は売上げに係る対価の返還等として扱うこともできるとしています。その場合は、適用税率に応じた区分のほか、帳簿に対価の返還等に係る事項を記載する必要があります。問30は、経理システムで、このための支払手数料のコードを通常の支払手数料と判別できるように別に用意する対応を例に挙げています。

なお、一定規模以下の事業者には、令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けられる少額特例があります(問29の(注)、28年改正法附則53の2)。対象になる事業者の条件は少額特例の記事で説明しています。

取適法の対象取引では振込手数料の差し引きは禁止(令和8年改訂)

令和8年4月の改訂で、問29の末尾に次の注意書きが加わりました。

国税庁インボイスQ&A 問29(令和8年5月改訂版)の注意書き

「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)の適用対象となる取引では、当事者間の合意の有無にかかわらず、振込手数料を売手に負担させ、代金から差し引くことは禁止されています。

インボイスの処理方法を説明する問の中に、取引のルールそのものに関する注意が入った形です。どの取引が取適法の対象になるかは、委託の内容や当事者の規模などで決まり、この記事では判定基準まで扱いません。Q&Aは公正取引委員会の「取適(トリテキ)法特設サイト」で確認するよう案内しています。

この注意書きを踏まえると、工場が支払う側に立つ場面で、取引先に振込手数料を負担させる前提の運用を新しく始めるのは勧められません。外注先の板金工場や部品の製造委託先などに支払うときは、取適法の対象かどうかを先に確かめ、対象であれば手数料は自社で負担する前提で支払処理を組みます。一方、工場が受け取る側で差し引かれた場合の消費税の処理は、前の節までの問29と問30のとおりです。

差し引きを前提にした契約や支払条件があるときは、インボイスの書類をそろえる前に、取引条件そのものを見直す必要があるかどうかを確認してください。

整備工場・車販店が今やること

  • 入金消込のとき、振込手数料の差額を「売上値引き」と「支払手数料」のどちらで処理しているかを社内で統一する
  • 支払手数料のまま経理するなら、対価の返還等として扱う分のコードを分け、帳簿に記載が残るようにする
  • 1回の請求で差し引かれた額が1万円以上になる例外(大口の値引きなど)が無いか確認する
  • 外注先や部品の製造委託先に支払う取引で、振込手数料を差し引いていないか、取適法の対象かを確認する
  • 免税事業者の取引先からの仕入れがあるなら、仕入税額控除の経過措置の割合もあわせて確認する

値引きの処理は、請求書を出す整備システム・整備ソフトと会計ソフトの両方にまたがります。お使いの整備システムで、入金時の差額を値引きとして記録できるか、1万円以上の値引きが出たときに適格返還請求書を出せるかを確認しておくと安心です。日本カーネットでは、整備システム・整備ソフト DREAM POWER の運用を含めてインボイス対応の無料相談を受け付けています。制度の全体はインボイス制度の改正点をご覧ください。

よくある質問

振込手数料を差し引かれたら返還インボイスを出す必要がありますか?
売上値引きとして処理する場合、原則は適格返還請求書の交付が必要ですが、税込1万円未満なら交付義務は免除されます(問27、消令70の9③二)。振込手数料は通常1万円未満なので、多くの場合は不要です。
複数の請求で差し引かれた手数料は合計して判定しますか?
いいえ。問28(令和8年5月改訂版)は、値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとの減額金額で判定するとしています。500,000円の請求から440円を差し引かれた例は、1万円未満として免除の対象です。
支払手数料として処理したままでもかまいませんか?
可能です。ただし役務提供の対価とみるなら買手の適格請求書か仕入明細書等が、立替とみるなら金融機関の適格請求書と立替金精算書等が必要です。経理は支払手数料のまま、消費税は対価の返還等とする方法も問30で認められています。
取引先に振込手数料を負担してもらってよいですか?
取適法の適用対象となる取引では、当事者間の合意の有無にかかわらず、振込手数料を売手に負担させ代金から差し引くことは禁止されていると、令和8年改訂の問29に明記されました。対象かどうかは公正取引委員会の資料で確認してください。
値引きの消費税率は何%になりますか?
もとの売上げの税率に従います(問29)。整備や車両販売など10%の売上げに対する値引きは10%です。

出典・参考資料

記載内容は2026年10月6日時点で国税庁等の公表資料を確認したものです。個別の取引の税務判断を示すものではありません。実際の申告・経理処理は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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